熱海温泉——昭和の観光地が「地元の街」として静かに生まれ変わるまで
2026-05-08·9 分で読める
# 熱海温泉——昭和の観光地が「地元の街」として静かに生まれ変わるまで
東京駅から新幹線でわずか46分。車窓に相模湾の青が広がった瞬間、あなたはもう熱海にいます。でも、この街が一度「死にかけた」ことを知っている人は、意外と少ないかもしれません。
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## バブル崩壊後の空洞化——熱海が経験した「観光地の死」
1960年代、熱海は新婚旅行の聖地でした。社員旅行の大型バスが連なり、巨大旅館が海沿いに林立した時代です。しかしバブル崩壊後、宿泊客数はピーク時(1969年・約530万人)から半分以下にまで激減。駅前の商店街にはシャッターが目立ち、大型ホテルが次々と廃墟化しました。「熱海=寂れた昭和の遺物」というイメージが定着し、地元の若者は街を離れていった。2011年頃が底だったと多くの住民は振り返ります。宿泊客数は約246万人まで落ち込み、街全体が息を止めているようだったと。ただ、この「空白の時間」が結果的に、家賃の安さと空き物件の多さという次のステージへの土壌をつくることになります。
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## 移住者と若手オーナーが仕掛けた商店街リノベーションの実態
転機は2012年頃から。市の起業支援制度「ATAMI2030会議」をきっかけに、東京や横浜からクリエイターや若手起業家が移住し始めました。彼らが目をつけたのが、熱海銀座商店街の空き店舗です。築50年以上の物件を最小限の改装で活用し、カフェ、ゲストハウス、クラフトビール醸造所などが次々とオープン。代表格が「CAFE KICHI」(ドリンク450円〜)や、干物の概念を変えた「熱海プリン」(1個350円)。重要なのは、彼らが「観光客向け」だけでなく「自分たちが住みたい街」を基準に店をつくった点です。だから地元の常連客もつく。Guest House「MARUYA」(ドミトリー1泊3,500円〜)は、まちづくり会社machimoriが運営し、宿泊者と地域をつなぐハブとして機能しています。
> **地元の豆知識:** 熱海銀座商店街の多くの新しい店は、元オーナーとの「人間関係」で契約が成立しています。不動産サイトに出ない物件が大半なので、本気で移住を考えるならまずMARUYAに泊まって地元の人と話すのが最短ルートです。
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## 地元民が通う渋い共同浴場と日帰り温泉のリアルな使い方
熱海には観光客が行く日帰り温泉施設のほかに、地元民専用に近い共同浴場が複数あります。市内に現存する公衆浴場で特におすすめなのが「山田湯」(入浴料500円)。住宅街の路地奥にあり、看板も小さく、Googleマップなしではまずたどり着けません。源泉かけ流しの熱めの湯(約43〜44℃)で、常連のおじいちゃんたちが静かに浸かっている空間です。日帰り温泉なら「日航亭 大湯」(1,000円、タオル持参推奨)が地元支持率トップクラス。徳川家康が愛したとされる源泉を引いており、露天風呂から湯気越しに見る空が格別です。入浴のコツは、午前中の早い時間に行くこと。午後は団体観光客と重なり、静かさが失われます。
> **裏技:** 共同浴場では自分のシャンプー・石鹸を持参してください。備え付けがない場所がほとんどです。また、湯船に入る前に必ずかけ湯を——これは「マナー」ではなく「掟」に近いものです。地元の方は本当に見ています。
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## 観光客が気づかない裏路地カフェと朝市の歩き方
毎週土曜・日曜の朝8時から、親水公園で開かれる「熱海よる朝市(日曜開催が中心、季節で変動あり)」は早起きの価値ありです。地元漁師の干物(アジの開き1枚300円〜)、みかんジュースの飲み比べ、手づくりジャムなど、スーパーでは出会えない品が並びます。10時を過ぎると人気商品は売り切れるので、9時前到着が鉄則。朝市のあとは、観光客が素通りする「糸川」沿いを歩いてみてください。川沿いの路地に「cafe nagisa」や古書店「ひみつの本屋」が点在し、ここだけ時間の流れが違います。ランチなら「わんたんや」(ワンタンメン850円)が地元の定番。飾り気のない店構えですが、40年以上続く味を求めて常連が通い続けています。開店直後の11時半がベストです。
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## 「また来る街」になるために——熱海が選んだ脱・観光地モデル
熱海の再生が興味深いのは、「観光客を増やす」ことではなく、「住みたい人を増やす」ことを軸に据えた点です。移住者が増えれば日常の経済が回り、その「生きた日常」に惹かれて旅行者がやってくる。実際、2023年の宿泊客数は約300万人台まで回復し、しかもリピーター率が高い。大型ホテルの団体客ではなく、小さな宿に連泊して商店街を散歩する個人旅行者が街の主役になりました。熱海は「映える観光地」に戻ろうとはしていません。坂道を歩き、地元の湯に浸かり、商店街のおばちゃんと話す——その「何でもない時間」が価値になる街を目指しています。次の週末、新幹線に飛び乗ってみてください。きっと、二度目はもっと深く歩きたくなるはずです。
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*最終更新:2025年1月|料金・営業情報は変動する場合があります。訪問前に各店舗の最新情報をご確認ください。*