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ごっこ汁——函館の人が冬になると恋しくなる「ブサかわ魚」の郷土汁

2026-05-08·9 分で読める
ごっこ汁——函館の人が冬になると恋しくなる「ブサかわ魚」の郷土汁

# ごっこ汁——函館の人が冬になると恋しくなる「ブサかわ魚」の郷土汁

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## ごっこ(ホテイウオ)とは何者か——見た目と味のギャップに驚く

初めてごっこを見た人は、ほぼ100%「えっ、これ食べるの?」という顔をします。正式名称はホテイウオ。体長約20〜30cm、真っ黒でぶよぶよ、お腹に吸盤がついていて、まるでオタマジャクシを10倍に膨らませたような姿です。「ブサかわ」という表現すら褒めすぎかもしれません。ところが、この見た目を裏切る味が函館の人々を虜にしてきました。身はほとんどがゼラチン質で、煮込むとプルプルのコラーゲンの塊になります。味自体は淡白ですが、出汁をぐんぐん吸い込む力がすごい。脂っこくないのに満足感があり、食べた翌朝は肌がもちもちになると地元の女性たちは本気で信じています。骨も柔らかいので丸ごと食べられるのも特徴です。

> **地元の豆知識:** ごっこのお腹の吸盤は、生きている間は岩にぴったり張り付くためのもの。漁師さんが岩から剥がすのに苦労するほど強力で、函館の子どもは「ごっこの吸盤」を手に貼り付けて遊んだりします。

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## なぜ観光客は知らないのか——12月〜2月限定・地元民だけの冬の風物詩

ごっこが観光ガイドにほとんど載らない理由は明快です。漁期が12月〜2月のわずか約3ヶ月間に限られ、しかも鮮度落ちが早いため流通がほぼ道南エリアで完結するからです。築地(豊洲)にもめったに出回りません。函館朝市でも、観光客向けの海鮮丼の横を素通りして、地元客が通う鮮魚店の片隅にひっそり並んでいる程度。1匹まるごと300〜500円ほどで売られていますが、買っていくのは地元のお母さんたちばかりです。さらに、見た目のインパクトが強すぎて「映える」写真にはなりにくいことも、SNS時代に埋もれてしまう一因でしょう。函館の人に「冬に恋しくなる食べ物は?」と聞くと、ラーメンでもカニでもなく「ごっこ汁」と答える人が驚くほど多いのに、この美味しさは道南の外にはなかなか届きません。

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## 家庭ごとに違うごっこ汁——味噌仕立て・醤油仕立て・卵の入れ方論争

ごっこ汁は函館の家庭料理の代表格ですが、「正解のレシピ」は存在しません。大きく分けると味噌仕立て派と醤油仕立て派があり、家庭によって完全に意見が割れます。味噌派は「コラーゲンのコクと味噌が合う」と主張し、醤油派は「繊細な出汁の味が消える」と反論。具材も豆腐・長ネギ・大根が基本ですが、じゃがいもを入れる家、白菜を入れる家、それぞれに「うちのが一番」という確信があります。そして最大の論争が「卵」です。メスのごっこは大量の黄金色の卵を持っていて、これがプチプチと弾ける食感で絶品なのですが、卵をそのまま汁に溶かす派と、卵だけ別に醤油漬けにする派で意見が真っ二つ。居酒屋では「卵入り」の方が100〜200円高く設定されていることが多く、それだけ卵の価値が認められている証拠です。

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## 旅行者が実際にごっこ汁を食べられる場所——居酒屋・食堂・朝市の現実

正直に言うと、ごっこ汁を「確実に」食べられる観光向けの店は多くありません。以下は実際に提供実績のあるスポットです。まず函館朝市周辺の**「きくよ食堂 本店」**では、冬季限定でごっこ汁を出すことがあります(時価、おおむね600〜900円)。ただし入荷次第なので、必ず事前に電話確認してください。地元の人が通う居酒屋なら、五稜郭エリアの**「魚まさ」**(一品800〜1,200円前後)や大門横丁の小さな店で冬メニューとして見かけることがあります。穴場は函館市内のスーパー**「魚長」**で、調理済みのごっこ汁パックが冬場に並ぶこともあり、ホテルに持ち帰って温めるだけで食べられます(400〜600円程度)。

> **裏技:** 函館朝市の鮮魚店で「ごっこありますか?」と聞くと、下処理済みのものを出してくれることがあります。近くの宿にキッチンがあれば、味噌と豆腐とネギだけで自作可能。これが実は一番安くて美味しい体験です。

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## 注文前に知っておきたいこと——食べ方のコツとプルプル食感の楽しみ方

ごっこ汁が運ばれてきたら、まず驚かないでください。お椀の中に黒っぽいゼラチン質の塊が沈んでいて、初見ではちょっとひるむかもしれません。食べ方のコツは「熱いうちに、箸で大きめにつかんで、一口で食べる」こと。プルプルの身は箸でつつくと崩れやすいので、小さく切ろうとすると逆に苦戦します。口に入れた瞬間のとろける食感と、出汁をたっぷり含んだゼラチンの旨味をぜひ味わってください。卵が入っている場合は、蓮華(レンゲ)で汁ごとすくうとプチプチ感を最大限に楽しめます。コラーゲンが冷めると一気に固まるので、おしゃべりに夢中にならず、温かいうちに食べ切るのが鉄則です。ちなみに地元の人は翌朝、鍋に残った汁が煮凝り(にこごり)状にプルプルに固まったものをご飯にのせて食べます。これが実は最高に美味しい、という事実もお伝えしておきます。

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*冬の函館を訪れる予定があるなら、カニやイクラだけでなく、ぜひこの「ブサかわ」な魚を探してみてください。地元の人と同じものを食べる——それだけで、旅の深さがまるで変わります。*