飯坂温泉——芭蕉が最初に愛した、観光客が忘れた福島の湯町

飯坂温泉——芭蕉が最初に愛した、観光客が忘れた福島の湯町

2026-05-08·10 分で読める
飯坂温泉——芭蕉が最初に愛した、観光客が忘れた福島の湯町 — Japanese onsen and hot springs

飯坂温泉——芭蕉が最初に愛した、観光客が忘れた福島の湯町

松尾芭蕉が『おくのほそ道』の旅で最初に浸かった湯が、東京から新幹線でわずか90分先にある。なのに、外国人観光客の姿はほとんどない。それが飯坂温泉です。


芭蕉が泊まった宿場町の現在地——観光地化しなかった理由

1689年、芭蕉はこの地で「あかつきの空よりも暗きまでの」雨に打たれ、貧しい宿で蚤に悩まされた夜を日記に残しています。その記述があまりにリアルだったせいか、飯坂は「風流な温泉地」というブランドを築きそこねました。明治以降は東北の奥座敷として栄えたものの、バブル崩壊後に大型旅館が次々と廃業。現在、温泉街の中心部には空きビルや閉じた旅館がそのまま残り、正直に言えば寂しさも漂います。しかし、だからこそ観光地特有の「作られた和風感」がない。生活の中に温泉がある、素のままの湯町が残っているのです。地元の人は朝6時に共同浴場へ行き、顔見知りと挨拶を交わし、そのまま仕事に向かう。その日常にお邪魔する感覚こそ、飯坂の最大の魅力だと僕は思っています。


9つの共同浴場の選び方——地元常連に聞いた暗黙のルール

飯坂には9つの共同浴場(公衆浴場)があり、すべて入浴料はたったの200円です。代表格は「鯖湖湯(さばこゆ)」。日本最古級の木造共同浴場を2023年にリニューアルした建物で、芭蕉が入ったとされる湯もここ。ただし、**湯温が体感46〜48℃**とかなり熱い。初めてなら「波来湯(はこゆ)」をおすすめします。比較的ぬるめの浴槽があり、建物も新しく脱衣所が広いので落ち着けます。

地元の豆知識: 共同浴場には石鹸やシャンプーが置いてありません。常連さんは自分の洗面器セットを持参しています。近くの「エンドー薬局」で小さなトラベルセットが150円程度で買えるので、手ぶらの方はまずそこへ。

もうひとつ大切なのが時間帯。朝6〜7時台と夕方17時前後は地元の方で混み合います。観光客としてゆっくり入りたいなら、午前10時〜14時が狙い目。湯船に入る前にかけ湯を丁寧にすること、タオルを湯に浸けないこと——これだけ守れば、常連さんは温かく迎えてくれます。


路地裏と川沿いの歩き方——Google Mapに載らない風景

飯坂温泉駅を出たら、まず摺上川(すりかみがわ)沿いを上流に向かって歩いてください。十綱橋(とつなばし)のたもとから見下ろす渓谷と古い旅館の並びは、昭和の温泉街がそのまま時間を止めたような風景です。橋を渡って左手の細い路地に入ると、苔むした石段や、営業しているのかわからない小さな理髪店、軒先に干し柿を吊るす民家が現れます。このエリアはGoogle Mapのストリートビューがカバーしていない区間が多く、実際に歩かないと出会えません。

旧堀切邸(入場無料)は江戸時代の豪商の屋敷を復元した施設で、敷地内に無料の足湯と手湯があります。散歩の途中に立ち寄って一息つくのに最適です。川の対岸に渡る小さな橋がいくつかあるので、行きと帰りで川の左右を変えて歩くと、同じ温泉街でもまったく違う表情が見えます。所要時間はゆっくり歩いて約40分。距離にして2km弱の散歩です。


温泉街の食は夜が本番——餃子と円盤餃子、地酒の店のリアル

福島市は知る人ぞ知る餃子消費量日本一の街(宇都宮・浜松と毎年トップ争い)。飯坂温泉は、その福島餃子文化の源流のひとつです。温泉街にある「餃子 照井 本店」は円盤餃子の名店で、鉄製の丸いフライパンに餃子を放射状に並べてパリッと焼き上げる。一皿23個入りで1,500円。2人でシェアしてちょうどいい量です。17時開店で、週末は18時には行列ができるので早めに向かってください。

裏技: 照井の待ち時間に、徒歩2分の「餃子のんき」でビールと焼き餃子(一人前350円)を先に楽しむ地元スタイルがあります。はしご餃子、ぜひ試してみてください。

地酒を飲むなら温泉街入口の酒屋「金水晶酒造」の直売所をチェック。福島の地酒は全国新酒鑑評会で金賞受賞数が連続日本一という実力派ぞろいです。一杯300円からの試飲もでき、お土産にもなります。


飯坂へのアクセスと滞在のコツ——福島駅起点の半日・一泊プラン

アクセス: 東京駅から東北新幹線で福島駅まで約90分(指定席8,000円前後)。福島駅から福島交通飯坂線に乗り換えて終点・飯坂温泉駅まで23分・370円。飯坂線は交通系ICカード対応なのでSuicaやPASMOでそのまま乗れます。

半日プラン(所要4〜5時間): 福島駅11:00発→飯坂温泉着11:23→摺上川散歩&旧堀切邸→鯖湖湯か波来湯で入浴→照井で早めの夕食→18時台の電車で福島駅へ戻る。

一泊プラン: 旅館「祭屋湯左衛門」は一泊二食付き12,000円台からで、部屋食プランもあり。素泊まりなら「ほりえや旅館」が5,500円前後と手頃です。翌朝は6時に共同浴場へ行けば、地元の朝風呂文化を体験できます。

地元の豆知識: 飯坂温泉駅の改札を出てすぐの観光案内所で「共同浴場めぐりチケット」のような割引券が出ていることがあります。スタッフは英語対応に慣れていませんが、温泉マップの英語版を用意してくれているので、最初に立ち寄ることをおすすめします。


派手な看板もインバウンド向けのメニューもない。でも、湯の温度と人の温度だけは確かに熱い——飯坂温泉は、そういう場所です。芭蕉が330年前に感じた東北の旅情は、観光客が忘れたこの町にこそ、まだちゃんと残っています。

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